2.八幡・釜ヶ谷

[8月15日〜]

【芭蕉自筆影印】
 舟をあ可連ハ む万尓ものらす ほそ者幾越 堂めさむ登 かちよ梨所ゆく 甲斐のくにより ある日との得させ堂る ひの木もて作連る可さ越 をのゝゝい多ゝ支よそ飛亭 や者多登いふ さと越すく礼ハ 可ま可いの者ら登云 飛ろき野有 秦甸の一千里と可や  めも者る可に見わ多佐るゝ つくハや万 む可ふ耳多可く 二峯ならひ堂天り 可のもろこしに 双劔のみ袮あ梨登 きこ盈しハ ろさんの一隅なり 
 雪盤申さす山ハ紫のつく者哉
とな可めしハ わ可門人嵐雪可句なり すへてこのや万ハ やまと多けのみことのこと者を傳て 連哥する日との 者しめ尓も名つけ多り 和可なくハあるへからす 句なくハすくへ可らす まことに愛すへき や万のす可多なり介らし  
(舟をあがれば、むま(馬)にものらず、ほそはぎ(脛)を、ためさむと、かちより(徒歩)ぞ(ソ)ゆく。甲斐のくにより、あるひとの得させたる、ひの木もて作れるかさを、をのゝゝいたゞきよそひて、やはた(八幡)といふ、さとをすぐれば、かまがいのはら(鎌谷の原)と云、ひろき野有。秦甸の一千里とかや 、めもはるかに見わたさるゝ。つくばやま(筑波山)、むかふにたかく、二峯ならびたてり。かのもろこし(唐土・中国)に、双剣のみねありときこえしは、ろざん(廬山)の一隅なり。
 雪は申さず山は紫のつくば哉
とながめしは、わが門人嵐雪が句なり。すべてこのやまは、やまとたけのみことのことばを伝て、連歌するひとの、はじめにも名づけたり。わか(和歌)なくばあるべからず。句なくばす(過)ぐべからず。まことに愛すべき、やまのすがたなりけらし。 ) 
 







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1.深川・行徳

[1687年 貞享4年8月14日]
【芭蕉自筆影印】  
 らくのていしつ すまのうら能月み尓遊きて まつ可希や月ハ三五夜中なこむ登いひ遣む 狂夫のむ可しもなつ可し起萬ゝ耳 このあ支 かし万の山能月見むと 於も飛多川こと事あり ともなふ人婦堂利 浪客の士獨(ヒトリ) ゝゝハ水雲の所雲(ソ)う ゝゝハからすのことくなる墨のころ裳尓 三衣の袋を ゑり尓打可け 拄杖飛支那らして 無門の関裳 さ者るものなく あめつ地耳 獨歩していてぬ いま獨ハ 所う尓もあらす そくにもあらす 鳥鼠の間に名を可う婦りの とり那支し万尓もわ多りぬへく 門よ梨不年耳乗て 行徳い堂流 
(らくのていしつ、すまのうらの月みにゆきて、まつかげや月は三五夜中なごむといひけむ、狂夫(風狂人)のむかしもなつかしきままに、このあき、かしまの山の月見むと、おもひたつこと事あり。ともなふ人ふたり。浪客の士独(ヒトリ)、ゝゝは水雲のそ(ソ)う、ゝゝはからすのごとくなる墨のころもに、三衣(頭巾)の袋を、ゑりに打かけ、拄杖(シュジョウ・錫杖シャクジョウ)ひきならして、無門の関も、さはるものなく、あめつち(天地)に、独歩していでぬ。いま独(自分)は、そう(僧)にもあらず、ぞく(俗人)にもあらず、鳥鼠(チョウソ)の間に名をかうぶり(こうもり)の、とりなきしま(鳥なき島)にもわたりぬべく、門よりふねに乗て、行徳いたる。 )













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3.布佐

【芭蕉自筆影印】
 者き盤 尓しき越 地尓志遣らんやう尓て 堂めな可とや 覧の長ひつ尓折り入て みやこのつとに も多せ堂る 風流尓く可らす きち可うをみ那へし 可る可や 於盤那み多れあ悲て さ於し可の つまこひわ多る いとあ者れなり 野ゝこま ところ江可保耳 む連あ里く ま多あ者連な梨
 日すてにく連可ゝるほとに と袮可ハの保とり 婦さ登
いふところ耳つく この可ハ尓て さけのあしろ登いふものを 堂くみて 武江のいちに飛さく裳農あ梨 よひの保とハ その漁家耳入亭やすらふ よる能やと なまくさし
(はぎ(萩)は、にしきを、地にしけらんやうにて、ためなか(為仲)とや、覧の長びつ(櫃)に折り入て、みやこのつと(都の苞・土産)にもたせたる、風流にくからず。きちかう(ききょう)、をみなへし、かるかや、おばな、みだれあひて、さおしか(牝鹿)の、つまこひ(妻恋)わたる、いとあはれなり。野ゝこま(駒)、ところ(いい所)え(得)がほに、むれありく(群れ歩く)、またあはれなり。 
 日すでにくれかゝるほどに、とねがは(利根川)のほとり、ふさ(布佐)といふところにつく。このかはにて、さけのあじろ(網代)といふものを、たくみて、武江(江戸)のいちにひさ(販)ぐものあり。よひのほどは、その漁家に入てやすらふ。よるのやど、なまぐさし。)







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(5)帰路

【芭蕉自筆影印】

 帰路自準に宿す

 塒(ネグラ)せよわら本す宿能友すゝめ
            あるし
 あ支越こめ多るく袮の指杦
          可く(桃青)
 月みむとし保飛支登る不年とめて 
             ソラ
 貞亨丁卯仲

(帰路自準に宿す

 塒(ネグラ)せよわらほす宿の友すゞめ
            あるじ
 あきをこめたるくねの指杉
          かく(桃青)
 月みむとしほひき登るふねとめて 
             ソラ
 貞亨丁卯仲秋 )

【句碑】
①長勝寺
 潮来市潮来428

 あきをこ免多留久年の指杦
(あきをこめたるくねの指杉)










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(3)野

【芭蕉自筆影印】

 

 もゝ飛支や一花摺の者き衣 ソラ

 者きハらや日とよハやとせ山の犬
              桃青

(野

 もゝひきや一花摺のはぎ衣 ソラ

 はぎはらやひとよはやどせ山の犬
              桃青)

【句碑】
①詠地付近になし

(はぎはらやひとよはやどせ山の犬)


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(4)田家

【芭蕉自筆影印】
 
 田家

 可りか遣し多つら能つるやさとの秋
             桃青
 よ田可りに我やと者連む里の月
             宗波
 賎のこやいね摺可遣て月をみる
              桃青
 いもの者や月待さとの焼者多け
             桃青

(田家

 かりかけしたづらのつるやさとの秋
             桃青
 よたかりに我やとはれむ里の月
             宗波
 賎のこやいね摺かけて月をみる
             桃青
 いものはや月待さとの焼ばたけ
             桃青 )

【句碑】
①水神社・大六天神社
 潮来市大州862

 刈加希之田面能鶴也左登農秋
(刈かけし田面の鶴やさとの秋)
(刈かけし田面の鶴や里の秋)



②詠地付近になし

(賎のこやいね摺かけて月をみる)

③詠地付近になし

(いものはや月待さとの焼はたけ)


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(2)神前

【芭蕉自筆影印】

 神前

 この松能実者へせし代や神の秋
             桃青
 ぬく者ゝや石の於ましの苔の露
             宗波
 飛さ於るや可しこまり啼鹿のこゑ
             ソラ
(神前

 この松の実ばへせし代や神の秋
             桃青
 ぬぐはゞゝや石のおましの苔の露
              宗波
 ひざおるやかしこまり啼鹿のこえ
             ソラ )


【句碑】
①鹿島神宮奥宮
 鹿嶋市宮中2306-1

 此松農實生世し代や神乃秋
(此松の実生せし代や神の秋)


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