(1)根本寺

【芭蕉自筆影印
 月くまなく 者礼希るまゝに 夜舟さしく堂して かしまにい堂る 
 昼よりあめ 志きりにふりて 月見流へくもあらす この布もとに 根本寺のさ起の和尚 いま盤よをのか連て こ能ところ尓 於者し遣る登いふをきゝて 堂つ袮入て 婦しぬ すこ婦る人をして 深省を者つせしむと きんし遣む 志者らく 清浄こゝろをう流尓ゝ多り
 あ可つ支能空 いさゝ可者連間あり遣るを 和尚於こし 驚し侍連者 日とゝゝ於支いてぬ 月の光 あめ能おと 堂ゝあ者礼なる 遣し起のミ む年尓みちて いふへきこと者も那し 者るゝゝ登 月見尓き堂る か悲なきこそ 本意那支わさな連 可の何かしの女すら 保とゝ支すのう多 えよまて可へり わつらひしも 我可堂免尓盤 よき荷憺の人ならむ可し 

 於りゝゝ尓可ハらぬ空の月可遣も
             和尚
ちゝのな可免ハ くものまにゝゝ

 月者やしこすゑハあめを持なから
             桃青

 てらに袮天まこと顔なる月見哉
             桃青

 あめ尓袮て竹起可へる月み可那
             ソラ

 つきさ悲し堂の軒端の雨雫
                                           宗波

(月くまなく、はれけるまゝに、夜舟さしくだして、かしま(鹿島)にいたる。 
 よりあめ、しきりにふりて、月見るべくもあらず。このふもとに、根本寺のさきの和尚、いまはよをのかれて、このところに、おはしけるといふをきゝて、たづね入て、ふしぬ。すこぶる人をして、深省をはつ(発)せしむと、ぎん(吟)じけむ、しばらく、清浄こゝろをうるにゝたり。
 あかつきの空、いさゝかはれまありけるを、和尚おこし、驚し侍れば、ひとゞゝおきいでぬ。月の光、あめのおと、たゞあはれなる、けしきのみ、むねにみちて、いふべきことばもなし。はるゞゝと、月見にきたる、かひなきこそ、ほい(本意)なきわざなれ。かの何がしの女(清少納言)すら、ほとゝぎすのうた、えよま(得ない)でかへり、わづらひしも、我がためには、よき荷担(カタン・味方)の人ならむかし。

 おりゝゝにかはらぬ空の月かげも
            和尚 
ちゞ(千千)のながめはくものまにゝゝ 

 月はやしこずえはあめを持なから
             桃青

 てらにねてまこと顔なる月見哉
             桃青

 あめにねて竹起かへる月みかな
             ソラ

 つきさびし堂の軒端の雨雫
                                           宗波 )

【句碑】
①根本寺
 鹿嶋市宮中2682

 月者やし梢ハ雨遠持那可ら
(月はやし梢は雨を持ながら)

②根本寺

 寺尓寝て真こと顔奈留月見哉
(寺に寝てまこと顔なる月見哉)




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