[1687年 貞享4年8月14日]
【芭蕉自筆影印】
らくのていしつ すまのうら能月み尓遊きて まつ可希や月ハ三五夜中なこむ登いひ遣む 狂夫のむ可しもなつ可し起萬ゝ耳 このあ支 かし万の山能月見むと 於も飛多川こと事あり ともなふ人婦堂利 浪客の士獨(ヒトリ) ゝゝハ水雲の所雲(ソ)う ゝゝハからすのことくなる墨のころ裳尓 三衣の袋を ゑり尓打可け 拄杖飛支那らして 無門の関裳 さ者るものなく あめつ地耳 獨歩していてぬ いま獨ハ 所う尓もあらす そくにもあらす 鳥鼠の間に名を可う婦りの とり那支し万尓もわ多りぬへく 門よ梨不年耳乗て 行徳い堂流
(らくのていしつ、すまのうらの月みにゆきて、まつかげや月は三五夜中なごむといひけむ、狂夫(風狂人)のむかしもなつかしきままに、このあき、かしまの山の月見むと、おもひたつこと事あり。ともなふ人ふたり。浪客の士独(ヒトリ)、ゝゝは水雲のそ(ソ)う、ゝゝはからすのごとくなる墨のころもに、三衣(頭巾)の袋を、ゑりに打かけ、拄杖(シュジョウ・錫杖シャクジョウ)ひきならして、無門の関も、さはるものなく、あめつち(天地)に、独歩していでぬ。いま独(自分)は、そう(僧)にもあらず、ぞく(俗人)にもあらず、鳥鼠(チョウソ)の間に名をかうぶり(こうもり)の、とりなきしま(鳥なき島)にもわたりぬべく、門よりふねに乗て、行徳いたる。 )
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