3.布佐

【芭蕉自筆影印】
 者き盤 尓しき越 地尓志遣らんやう尓て 堂めな可とや 覧の長ひつ尓折り入て みやこのつとに も多せ堂る 風流尓く可らす きち可うをみ那へし 可る可や 於盤那み多れあ悲て さ於し可の つまこひわ多る いとあ者れなり 野ゝこま ところ江可保耳 む連あ里く ま多あ者連な梨
 日すてにく連可ゝるほとに と袮可ハの保とり 婦さ登
いふところ耳つく この可ハ尓て さけのあしろ登いふものを 堂くみて 武江のいちに飛さく裳農あ梨 よひの保とハ その漁家耳入亭やすらふ よる能やと なまくさし
(はぎ(萩)は、にしきを、地にしけらんやうにて、ためなか(為仲)とや、覧の長びつ(櫃)に折り入て、みやこのつと(都の苞・土産)にもたせたる、風流にくからず。きちかう(ききょう)、をみなへし、かるかや、おばな、みだれあひて、さおしか(牝鹿)の、つまこひ(妻恋)わたる、いとあはれなり。野ゝこま(駒)、ところ(いい所)え(得)がほに、むれありく(群れ歩く)、またあはれなり。 
 日すでにくれかゝるほどに、とねがは(利根川)のほとり、ふさ(布佐)といふところにつく。このかはにて、さけのあじろ(網代)といふものを、たくみて、武江(江戸)のいちにひさ(販)ぐものあり。よひのほどは、その漁家に入てやすらふ。よるのやど、なまぐさし。)