2.八幡・釜ヶ谷

【芭蕉自筆影印】
 舟をあ可連ハ む万尓ものらす ほそ者幾越 堂めさむ登 かちよ梨所ゆく 甲斐のくにより ある日との得させ堂る ひの木もて作連る可さ越 をのゝゝい多ゝ支よそ飛亭 や者多登いふ さと越すく礼ハ 可ま可いの者ら登云 飛ろき野有 秦甸の一千里と可や  めも者る可に見わ多佐るゝ つくハや万 む可ふ耳多可く 二峯ならひ堂天り 可のもろこしに 双劔のみ袮あ梨登 きこ盈しハ ろさんの一隅なり 
 雪盤申さす山ハ紫のつく者哉
とな可めしハ わ可門人嵐雪可句なり すへてこのや万ハ やまと多けのみことのこと者を傳て 連哥する日との 者しめ尓も名つけ多り 和可なくハあるへからす 句なくハすくへ可らす まことに愛すへき や万のす可多なり介らし  
(舟をあがれば、むま(馬)にものらず、ほそはぎ(脛)を、ためさむと、かちより(徒歩)ぞ(ソ)ゆく。甲斐のくにより、あるひとの得させたる、ひの木もて作れるかさを、をのゝゝいたゞきよそひて、やはた(八幡)といふ、さとをすぐれば、かまがいのはら(鎌谷の原)と云、ひろき野有。秦甸の一千里とかや 、めもはるかに見わたさるゝ。つくばやま(筑波山)、むかふにたかく、二峯ならびたてり。かのもろこし(唐土・中国)に、双剣のみねありときこえしは、ろざん(廬山)の一隅なり。
 雪は申さず山は紫のつくば哉
とながめしは、わが門人嵐雪が句なり。すべてこのやまは、やまとたけのみことのことばを伝て、連歌するひとの、はじめにも名づけたり。わか(和歌)なくばあるべからず。句なくばす(過)ぐべからず。まことに愛すべき、やまのすがたなりけらし。 )